概要
授業における学生のAI利用については,教員が,授業や課題ごとに許可する範囲を明示することが必要です(AIツールの授業における利用について(ver. 1.0) を参照).このページでは,その典型的な選択肢を,AI利用場面の分類(S1〜S5)と,そのどこまでを許可するかを表すAI利用範囲ラベル(T0〜T5)として用意しました.以降,各授業・課題について,いずれかもしくは「その他」を選んで学生に示してください.
2026年度Aセメスターより,UTOLで課題を出す際に,このラベルを選択して学生に示せるようにいたします(9月末導入予定).
※許可するAI利用範囲を学生に伝えること自体は,UTOL上で出すか否かを問わず,すべての課題で必要です.
本学の基本的な考え方
学生がAIを利用するのが適切であるか否かは,個々の授業や課題の教育上の目標に照らして決められるべきものです.それは課題の達成目標,提出物の形式,受講学生(学年など)によって異なります.したがって,個別の場面・課題ごとに教員が決め,明確に指示をすべきである,というのが本学の基本方針です.柔軟性と,教員それぞれの考え方を反映できることを重視し,画一的な線引きに固定することはしません.
本ページや本機能は,どのような場面でAI利用を許可すべきか,すべきでないか,という方針そのものを定めるものではありませんが,考え方の目安をページ末尾で述べています.
従前より教員向けにはAIツールの授業における利用について(ver. 1.0)を,学生に向けには 東京大学の学生の皆さんへ:AIツールの授業における利用について(ver. 1.0) を,基本方針としており,このページはその中の
- 教員向け: “[2] 授業や課題ごとに,言語生成系AI利用に対する教員のスタンスを明示する”
- 学生向け: “[2] [授業での利用の可否] … 所属学科や専攻および各授業の担当教員の指示に従ってください.”
を実践するものです.
AI利用許可範囲の示し方
課題一つをとっても,全面禁止・全面許可ではない中間の利用範囲が多くあり得ます.たとえば「つまずいたときにAIに質問するのはよいが,AIの出力をそのままコピーするのは認めない」といったものです.そこで,曖昧さやそれに基づく誤解を減らすため,および許可する利用範囲を示す負担を減らすため,いくつかの選択肢を提示します.まず以下に S1〜S5 の典型的な利用場面を示し,その上で,それらのうちどこまでをOKとするか,という選択肢(T0〜T5)を設けます.
AI利用場面の分類
| 場面 | 名称 | 補足 |
|---|---|---|
| S1 | 質問・調査 | わからないところを質問する 課題のトピックについての一般的な知識・背景知識について調査する |
| S2 | 議論・壁打ち | AIと議論する,いわゆる壁打ち テーマを自分で設定する課題において,テーマ選びの相談をする |
| S3 | フィードバック | 自分が作った解答やレポートに対するフィードバックを得る |
| S4 | 草稿 | 提出物の草稿や一部を作成させ,その後それを元に提出物に仕上げる |
| S5 | 創造的利用 | 学習の道具として以外の様々な利用 AIの出力を吟味させる AIの様々な活用法・活用モード自身を学ぶ |
それぞれに当てはまる利用方法の例
- S1
- 基本的な練習問題でつまずいた点について質問する
- 授業の説明でわからなかった点について質問する
- ある授業を受けるための予備知識習得のために質問する
- 馴染みの薄いトピックに関する調査をする
- 課題の遂行に読み込みの必要な,非母語文献を母語に翻訳して読む
- S2
- エッセイにおけるテーマ設定,論旨設定について相談する
- 自由創作課題における目標設定について相談する
- S3
- 小論文など,特に書き方や形式に対する添削をさせる
- 自分の解答のどこが間違っているかを質問する
- 複数の解法がある演習問題で,自分の解答に対するフィードバックを得る
- S4
- 学習の目標が草稿の後の作業(評価・検証・改善・実験・分析など)にある課題で草稿を作らせる
- プログラミング課題でのベースラインコード(評価対象や改良前の単純なコード)を生成させる
- データの分析・考察を主眼とする課題で,それ以前の図表化,データ可視化などをさせる
- S5
- 立場を決めて主張を述べる小論文やエッセイなどで,反駁対象となる主張を生成させる
- AIの出力を吟味し,誤り・偏り・再現性(のなさ)・指示による答えの違い(一貫性のなさ)など,AIの限界を学ぶ
- AIの出力を,査読を受けた文献などと照らし合わせて評価する
- AIの活用法自身を学ぶ: AI (API) を組み込んだプログラムの作成,RAGの活用法,エージェントの活用法など
AI利用範囲ラベル
- Ti は,S1 〜 Si までをOKとする,という意味になります
- たとえば T3 は S1 〜 S3,すなわち質問・調査,議論・壁打ち,フィードバックを得るところまで,という意味になります
- T5 は,S4 までを認めた上で,さらにその他の利用(AIの活用や吟味それ自体を課題の目的に含める場合など)を含める場合に選んでください
注: 「本学の基本的な考え方」で述べたことの繰り返しになりますが,これらのラベルのどれが適切かは課題の学習目標や成果物の形式などによって決められるべきものです.数字が大きい方がより進んでいる,ましてや大きい方が良い,などの評価基準を表現するものではありません.
| AI利用範囲ラベル | 説明 | AIASによる分類 |
|---|---|---|
| T0 | AIは利用しない | No AI |
| T1 | 質問・調査 | AI Planning |
| T2 | T1 + 議論・壁打ち | AI Planning |
| T3 | T2 + フィードバック | AI Collaboration |
| T4 | T3 + 草稿 | Full AI |
| T5 | T4 + 創造的利用 | AI Exploration |
| その他 |
これらに当てはまらない場合は「その他」を選び,許可するAI利用範囲を記述してください.
例:
- S1 と S3 は認めるが S2 は認めない
- T3, しかし配布資料をそのままAIに翻訳させることは認めない
教員は,ラベルを示す際に,課題の学習目標(何を出せばいいのか,ではなく,本人が何を得る・学ぶのが目標か)を示し,それに照らしてなぜそのラベルを選ぶのかを一言添えると,学生の理解と納得が得られやすくなります.
AI利用範囲の明示を超えて …
学生へのメッセージ
学生は,ルールを守る(不正をしない; 許されていないAI利用は他の不正行為と同様の扱いとなる)のはもちろんですが,
そもそも学習の目的の大半は,自分の脳や体に何かを刻み込むことであって,生み出した「成果物」そのものではない,ということを深く意識して日々(大学の勉強に限らず,あらゆる場面で)の学習に取り組むことが大切です.もちろん成果物そのものにユニークな価値があり,それが広く読まれること,鑑賞されること,使われること自体に意味があるような著述・創造・発明・発見が生まれることもありますし,そのようなものを目指すことは良いことです.
しかし,学習の多くの活動は,「将来そのような成果を生み出すための準備」としてその練習をしたり(例:エッセイや小論文を形式も学びながら書く),既知の理論や著述を学んだり,身につけたりする(例:問題を解く,プログラミングをする)ことに当てられます.そのような学習では,上記のような成果がなければ無意味なのでは全くなく,皆さん自身の成長=脳内,脊髄,神経,… の中に起きた変化そのもの,が意義,価値となります.
平たい言葉で言えば「自分のためにならないことはやめましょう」という,昔から言われてきたことと同じですが,それを意識することは「成果物」自身を生成することがいとも容易になってしまった現在において極めて重要となります.成長(=変化)の機会を逃すことのないようにしてください.
そのうえで各AI利用範囲ラベルについて,そのような利用の際に意識してほしいことを一般論として述べておきます.
- S1 : 疑問,質問(何がわからないか)を明確に言語化する,必要な情報や背景知識を探索・整理するなどにより,課題への理解を広げる
- S2 : 自身の考えを言語化した後,異なる視点や反論に触れ,論点,仮説,アイデアを深める・広げる・洗練する
- S3 : 作成した解答や成果物を振り返り,AIからの指摘の妥当性を自ら判断し,採否を選択しながら改善する
- S4 : AIが生成した草稿を鵜呑みにすることなく,内容の正確性や妥当性,構成等を自ら検討し,自らの考え,論旨に沿って選択・修正・再構成して 自らが内容に全て責任を持てる成果物 に仕上げる
- S5 : AIの出力を批判的に捉える,AIの特性や限界を知る,新たな問いや知見,解決方法などを探索・創出する
大学で学び始めたばかりの学生へのメッセージ
高校時代までにはあまりなく,大学では非常に多くある課題形式は,ある程度の分量の文章を書く,(小)論文,エッセイと呼ばれる形式です.テーマの設定が広範で何を書いたら良いのかわからない,多くの文章を書かなくてはいけない,ということでAIに丸投げするような誘惑にかられやすい形式です.
そのような課題は,何か一つの「正解」が定まっていてそれを導き出せるかを試す演習問題とは違います.世界でもまだ答えがでていないが重要な問題(例: 「戦争をどうしたら無くせるか」)を問うもの,故に様々な(部分的な)解があったり,人によって見解が異なっているものです.そのような課題では,そこに「あなたの考え」が投影されていなくては全く存在価値がありません.あなたのエッセイや小論文を読む教員も,学生であるあなたが何を考え,それをどう書いたのかを見ようとしています.
そうであるがゆえにもし,AIが出したものを(ほとんど)そのまま提出したような場合,信頼関係は損なわれ,その度合いは演習問題の答えを見て写した,というものとは比べ物になりません.また,一つに答えが定まっていないような問題に対して,部分的な解を積み重ね,人と異なる見解をぶつけ合うという行為は,将来皆さんがその一翼を担う研究の世界の基本的な営みです.(小)論文を書くという課題はその練習の機会ですので,その機会を逃すことのないようにして下さい.
また,小論文などの課題でAIを使って,それをほとんど見ずに出したら,その文章はそうとわかることがほとんどです.(薄っぺらい)内容の割に主張だけが強い文章になっていることが多く,ある主題に詳しい人が見ればそれは自然に感じられます.AIによる検出は完璧ではないとはいいますが,それは時々誤検出があることに気をつけなくてはならないという話で,AIが出した論文をそのまま出せば大概そうだとわかります.一度,自分が得意な分野の話題について長めの文章を書かせてみることを勧めます.
教員へのメッセージ
許可するAI利用範囲の明示が何故必要か
AI利用を許可するか否かが曖昧なままであると,AI利用について抑制的な学生(学習の目的に照らして自ら律している場合も,少しでも使ったことを不正と見なされるのを恐れている場合もあります)と,そうでない学生との間に,不公平が生ずる可能性があります.そのこと自体が学生に不安をもたらします.2026年度より行っている アンケート でも,AI利用の許否が明示されないことが多いこと,そのために学生が上記のような不安を感じていることが明らかになっています.
AI利用許否が抑制的であるか許容的であるかを問わず,それを 明確にすること が重要です.それが,学生が安心して学び,課題に取り組む環境を作る一助となります.
不正利用の検出について
ある課題についてルール(利用を許可する範囲)を示したとして,それを逸脱した不正な利用をどうやって検出するのかと思われるかも知れません.世の中ではAIによって生成されたかどうかを検出するとうたっているツールもありますし,電子透かしをいれるようなサービスも出てきていますが,誤検出もあり,それをすり抜けることも容易に可能な,いたちごっこの世界になると思われます.まして,質問をする,相談をする,配布資料の要約をさせるなど,提出物の一部にならないような利用の検出はさらに困難でしょう.
大事なことは,確実に検出できないからといって,ルールがなくて良いということにはならないということです.ルールがなければ,そもそも何が不正であるかの定義もできません.付け加えて大事なことは,ルールを明示する主目的は不正の定義をすることではないということです.上述したアンケートの通り,不正をするつもりのない(ほとんどの)学生が安心して学べる環境を作るためのものです.
評価について
不正利用の検出が完璧にはできないことを認めたとして,評価の正当性をどう担保するのかというのが次にくる問題です.実践的には,可能な範囲で成果物への責任感が自然に醸成される課題の形式や評価方法を考えるのがよいでしょう.教員だけに読まれるレポートを提出するという形式だけでなく,以下のような形式を,学生・教員の負担も考慮しながら取り入れるのがよいと思われます.
- 発表形式(口頭での質疑などを行う)
- 途中経過,進捗の発表・報告
- 学生間での相互レビュー
- (適切な場合は)成果物の公開
スキルや理解度確認の小課題・クイズについては,それ自体の出来不出来を評価対象にせず,自分で身につけておかないと後で困る(それが最終的な試験などで響く)と言って,自習教材とするのも一考と思われます.ただしそれらの小課題も,ペースメーキング,授業への参加確認程度の目的に提出させるのは意味のあることかと思います.
AI利用範囲設定の際の考え方
適切なAI利用範囲は個々の授業や課題の教育上の目標に照らして決められるべきもの,というのが基本方針ではありますが,それをどう決めるかについて,いくつかの材料を示します.教員も学生も,AIへの過度な依存がもたらす負の効果(批判的に考える力,学習への意欲を失う,など)について等しく懸念を持っています(アンケート).学習の主目標は「将来の貢献に備えた成長(変化)である」ということを認めたとして,であれば一般に,AIを使わない(全て自分でやる)のがよいのではないか,というのは自然に浮かぶ問いです.
ここでAIなしの学習において,「ほとんどの学生はどこかでつまずく」「質問をしたくてもその機会・時間が十分でない」,それによって学習の機会が失われている場合がある,という現実を直視する必要があります.いくら教員が質問を歓迎し,丁寧に答えたとしても時間には限界があり,故に発せられない質問があり,故にそこでつまずき,その先にある学習機会を失う場合は多いと思われます.そのような時に,いつでも,いつまでも質問ができ,フィードバックを即座に返せるAIは,学びを先へ進めるための道具として有用な場面が多いと思われます.
AI登場以前からの学習方法でも,特に初等的,基本的題材は,わからないとき,またはうまくいかないときにあまり長時間悩まずに解答例を見,それを反復して学ぶ,ということが多かったと思われ,AI利用にもそれと似た(または同等以上の)効果があると思われます.答えを見て学習するだけでなく,自分のやり方のどこが間違っているのか,もっとよいやり方はないかなどのフィードバックや,その問題以前の予備知識を得ることも容易になります.
許可するAI利用範囲を設定するにあたってはこれらの点を考慮することが重要です.つまり,そもそも課題を課す際の目標は 学習効果を高める ことであって,評価が本来の目的ではない,ということを考える必要があります.課題でつまずいた時に学生にそこを自ら抜け出して欲しいのか,それともそこからは一旦先へ進んでその先にある,より味わってほしい項目に到達して,そこで考え学んでほしいのかなど,各課題で学生に何を経験してほしいのか,それを中心にAI利用範囲を決めて下さい.
課題内容そのものの再考について
(アンケート)によると,回答した教員の60%近くが,「AIを前提とすると,これまでの授業内容や評価の在り方を大きく見直す必要性があると感じている」と答えています.そのことは,単にAIで容易に解けてしまう課題では評価ができないから,という目の前の課題だけでなく,方法やノウハウの集合という意味での知識の集合はAIに外部化できる,としたら,ではそのときに人間が身につけるべき知識や能力はどのようなものか,ということを多くの教員が自問していることを意味していると思われます.
それは,批判的思考力や,情報の真偽・信頼性を自ら検証する力などの,AI(を含めた他人)の主張を吟味するための能力,AIの出力を含めた様々な事実や意見を踏まえて何を選ぶかという総合的な判断,その判断に対する責任,それを裏打ちする倫理観などでしょう.それらを実際に実践するには,分野の基本を習得し,深く学んだ経験が必要なことは言うまでもありません.
強力なAIの存在を前提とした世の中で,教育・学びをどう変えるか,何を変えるか,変えないか,ということは誰かがすでに模範を示しているものではなく,個々の分野に精通した教員の知恵を結集して模索を続けるべき問題です.今後もそれを考え,良い実践例を共有し,議論し続ける場を作っていきたいと思います.